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                          筆名 出雲 隼凱

   
依頼(其の2)                  
                            
 小町の家は坂道の途中に建っていた。坂の上から見ると道の両脇に生えている大きな木の枝の合間から青い海が見え隠れしている。マリーと警官は歩いてその坂を下りていった。坂を下ると海岸沿いに走る大通りに突き当たる。大通りといってもあまり車は通らないが、人通りが全く無いとも言えない。大通りを渡るとすぐ遠浅の海が続く海岸に出る。砂浜はクリーム色の砂で埋め尽くされていてその所々に生えているココナッツの木の下には涼しそうな日陰ができている。その木と木を結んで誰も乗っていないハンモックが昼下がりのひと時を楽しんでいるかのようにぶら下がっていた。海岸に着くとかなり離れてはいたが数人の警官と、警官とは違う服を着た恐らく検死官だと思われる2人が、砂浜に横たわる何かを丸く囲んでいるのが眼に入った。マリーは吐き気を催していた。近付くに連れて何か布のようなものが身体に賭けてあるのが分かったが、顔には何もかけられていなかった。もう少し近づいていくと顔に何も被されていないのではなく覆っていた布の一部を捲り上げてあるのが分かった。
 マリーは足を止めた。それ以上近付く必要がなくなったからだった。髪の毛の色と横顔だけでそれが小町だと直ぐに分かった。
「彼女です…。小町です」
そう答えながらマリーは得体の知れぬ何かに押しつぶされるようにその場に座り込んでしまった。警官がマリーの隣に座り肩に手を差し伸べた。
「大丈夫ですか…。気を落とさないで。残念なことです。できれば彼女の家を調べたいのですが…」
警官はなんと言ってマリーを慰めていいのか分からないようで、ありきたりの言葉を並べるのが精一杯のようだった。マリーは小さく頷いた。その仕草はまるで項垂れて泣きべそをかき親に説得さる子供のようだった。海から押し寄せてくる潮風は何ごとも無かったかのように吹き続けていた。しかしこの時その風を清々しいと感じることのできる者は誰一人この海岸には存在しなかった。
 家に入るとマリーは然程寂しさは感じなかった。恐らく猫たちのせいだろう。マリーの足元に3匹の猫がまつわりついていた。餌をねだっているのだった。いつもは起きてきた主人が餌をくれるはずなのに、その主人の姿でさえ猫たちには見つけることが出来なかった。マリーは猫が気の毒になって猫の名前を一匹一匹呼びながらその場にしゃがみこんだ。警官が入ってくると猫たちは見知らぬ来訪者を恐れたのかそれぞれの好きな場所に逃げるように戻っていった。警官は家の中をゆっくりと見て回った。しばらく家の中で何かを探し回っているようだったが諦めてマリーのしゃがんでいる玄関へ戻ってきた。猫達はじっと動かずに警官の動きを窺っていた。
「争った形跡はありませんね。争ったどころか綺麗に掃除してあるみたいですね。貴方が掃除したんですか」
マリーは首を小さく横に振った。
「私が家の中を掃除したのは3日前です」
警官は腕を組んで考えているようだった。そして深く溜息をつくとまた話し出した。
「遺書も無いようだし…。身体に外傷もないし目撃者もいないので自殺というのが私達警察の見識です。家に遺書くらいは残していると思いましたが…、見当たりませんね」
マリーは警官が話している間猫たちのことが気になっていた。彼らの餌のこともあったが、それよりも今後の彼らの身の振り方を心配していた。何が小町を自殺に追い込んだのかマリーには想像もつかなかったし、いくら考えたとしてもそんなことは無意味なことだとしか思えなかった。それよりも小町が可愛がっていた猫たちを今後苦労しないように取り計らってあげるのが彼女の小町に対する慰めだと思っていた。警官はマリーの返事を待っているようだったが、マリーが心ここにあらずというような表情を顔に浮かべているのを見て取ったのか急に話を纏めようとした。
「とにかく検死の結果を待つしかなさそうですね」
警官は然程家の中の部分部分には興味がないらしくただ単に遺書を探しに来たような態度だった。2人は外に出ると検死の結果を知らせるための携帯電話番号のやり取りをした。日本の遺族への知らせは地元警察が日本大使館を通してするということだった。
 坂道を上がってくる潮風が2人の髪の毛を揺らしていた。アカシアの木の下で近所の子供達が奇声を上げて走り回っていた。皆何事もなかったかのように全くいつもと変わらなかった。ただいつも餌をくれるはずの主人の姿を見つけることの出来ない猫達だけがいつもと違う異様な雰囲気を感じ取っていたのかもしれない。いや、猫たちは既に小町がもうこの世を去ってしまったことを知っていたのかもしれない。猫達の目に悲しみと不安が色となって留まっているように見えた。
 検死の結果と警察の捜査の打ち切りがマリーの耳に届いたのはそれから3日後のことだった。結局外傷その他変わったところは発見されず、また解剖の結果も体内からは薬物といったような不振なものも検出されなかった。その結果と捜査を基に警察は自殺による溺死と断定したようであった。身元引受人の小町の母は高齢のため渡航は不可能という理由で大使館が遺体を火葬して日本に届けるということだった。マリーにとっても不服はなかった。小町が他の誰かと争っていたようなことはなかったし、増してや恨みを買うようなこともない性格だったことをよく知っていたからだった。マリーには他殺ではなかったということは自殺だったのだと考えることしかできなかった。ただなぜ自殺したのかは小町の家の隣で暮らしていたマリーにも全く分からずじまいだった。
 マリーは警察が捜査をしていたこの3日間を猫たちを引き取ってくれる新しい飼い主を探すことに費やしていた。運よく4人の猫好きを見つけだすことができ、後はその新しい飼い主たちが猫たちを引き取りに来るのを待つだけだった。問題は残った一匹だった。考えた挙句マリーは自分でその猫を引き取ることにした。引き取ってくれる人たちが小町の家に来た時にそれぞれ気に入った猫を選ぶという話になっていたのでマリーは自分で真っ先に選ぶことにした。マリーは桃ちゃんを引き取ることにした。これといって特別理由はなかったが、5匹の中でも一番自分に慣れている猫を選んだ。
 やがて猫達は皆新しい主人に連れられていった。静かになった小町の家の戸締りをしながらマリーはなぜ小町は自殺なんてしたのだろうと涙を流していた。家の外ではいつものようにアカシアの木の下で子供達が遊んでいた。その子供達もやがてはこの開かずの家の異常に気付くことだろう。風が玄関の鍵を掛けるマリーの涙を徐々に渇かしていった。潮風は次第に強さを増し、舞い上がった土埃が子供達の視界を妨げていた。

 まだしょぼしょぼする目を手の甲で擦りながら、山瀬剛はベッドから起き上がり玄関のドアへよたよたと歩き始めた。郵便配達人がガチャガチャと玄関の新聞受けに何かを差し込んでいる音に起こされたのだった。玄関といってもアパートのそれで、安っぽいドアの中央に新聞受けの口がぽっかり開いている。当然新聞だけでなく手紙なども入ってくる。壁に掛けられた時計は既に11時を回っていた。これまでこの時間にはなかった郵便配達の不規則な訪問に山瀬は少し不機嫌にさせられた。山瀬は長年続けてきた客商売をやめ、ほんの少し骨を休ませるための休養を楽しんでいるのだった。殆ど夜が仕事だったこともあって、起きる時間を正常な人間のそれに戻すことが出来ないでいた。玄関に近付くと新聞が玄関の床に落ちていた。その上に今では殆ど見れなくなったきちんと漢字の宛名が書かれた手紙と思われる封筒がひとつ載っていた。その下に薄いセロファンに包まれた、カタカナの宛名が書かれたダイレクトメールも横たわっていた。もう一通やはりカタカナで宛名の書かれた電力会社の請求書兼振込用紙が入った封筒もあった。これは封筒に宛名を書くのも惜しいのか小さな覗き窓のような透明のセロファンがそれに貼られて中の請求書に書かれた名前が見えるようになっている。山瀬はその請求書を見るといつも不機嫌になった。拾って引き裂きたくなる衝動を堪えた。それらはコンクリートの床の上に無造作に散乱していた。山瀬はしばらくの間それらを拾いもせずに眺めていたが結局漢字の宛名が書かれた珍しい封筒だけを拾った。裏を見ると差出人は幾田優子となっていた。その字が達筆なことから山瀬は差出人が若い人ではないことを直感した。
「こんな名前初めて聞くな…」
もしかすると宛先人が間違っているのではないかと思い、ひっくり返して確かめてみた。住所、氏名、宛名の漢字も間違いなく確かに山瀬のものだった。山瀬は無意識に首を傾げていた。テーブルに手紙を放り投げて、とりあえず薬缶にお湯を入れて1人分のコーヒーを入れるためのお湯を沸かし始めた。いったんテーブルに戻りもう一度宛先人を確かめて確かに自分のものであると分かると封筒の端の方を摘んで少しずつ千切っていった。中の便箋を引っ張り出して開いてみると、書かれた文字は確かに達筆だった。
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